Dental Topics Ⅰ
(東京都:銀座・有楽町・新橋・築地|歯科)
■ 口内細菌、重病の原因にも (サンケイ新聞 2013.2.7)
複数の細菌が固まり、ぬるぬるとした状態になった「バイオフィルム」。口の中のバイ オフィルムは、虫歯や歯周病だけでなく、肺炎など重い全身の病気の原因になることも ある。(油原聡子)
◆菌の集合体
東京歯科大の奥田克爾(かつじ)名誉教授(微生物学)によると、バイオフィルムで あるデンタルプラークは複数の細菌の集合体だ。バイオフィルムは、細菌が周囲にねば ねばした物体を作って個体がくっつき合い、集団になったもの。実はバイオフィルムは 身近な存在だ。「台所やお風呂場の掃除をさぼると出てくる、ぬるぬるしたものも細菌 の固まり、バイオフィルムです」(奥田名誉教授)
注目されているのが、口の中のバイオフィルムだ。人の口の中には500種類を超え る細菌がいるという。奥田名誉教授は「口の中の細菌は、唾液成分や歯と歯茎の隙間か らにじみ出る成分を栄養源にして繁殖する」と指摘する。バイオフィルムは、ねばねば した膜で包まれているため、抗菌剤や免疫機能が効きづらいという特徴がある。
口の中のバイオフィルムには、虫歯の原因となるミュータンス菌や、歯周病の原因と なる細菌も集団で潜んでいる。その中で、全身疾患に関わりがあるとして注目されてい るのが歯周病原細菌だ。
歯周病は主に歯周病原細菌によって起こる。歯の周りのバイオフィルムが、歯と歯茎 の間の溝(歯周ポケット)を作る。炎症を起こして歯茎が赤く腫れるほか、出血が見ら れることもある。進行すると歯周ポケットが深くなっていき、歯を支えている組織に炎 症が及ぶ。すると、口臭が発生し、歯を支える骨が溶けて歯がぐらつき、かめない状態 になる。
◆高齢者は注意
歯周病は日本人成人の7割以上がかかっているとされる。歯周病原細菌が関わっている病気で、高齢者が特に注意したいのが誤嚥(ごえん)性肺炎だ。
誤嚥性肺炎は、歯周病原細菌などが唾液とともに肺に流れ込んで起こる疾病で、高齢者に多く発症する。通常は、唾液と一緒に飲み込まれた細菌は胃液によって「殺菌」される。寝ているときも唾液を飲み込む「嚥下(えんげ)反射」が起こり、細菌の気道へ の侵入を防いでいる。
元気な人なら、せきなどによって細菌を排除できる。また、気道粘膜に生えている細かい繊毛(せんもう)によって唾液が肺に流れ込まないようになっている。しかし、高 齢者は嚥下反射が低下しているため、細菌が肺や気管支に入り込んでしまうという。奥 田名誉教授は「高齢者になると免疫力が低下し、抗菌作用のある唾液の量も少なくなり 、歯周病になりやすくなる」と話す。
歯周病原細菌が関係している可能性がある病気では、脳血管障害や心疾患のほか、糖尿病や低体重児の出産との関連も報告されているという。
慶応大の中川種昭教授(歯科・口腔外科)は「歯周病原細菌が歯茎に入り込むと、歯茎を通る血管を通じて全身に回ってしまう」と説明。「口の中の細菌をコントロールするケアは、予防にも、治療後の再発を防ぐためにも重要だ」と指摘している。
■眠る前のケアが大事
口の中のバイオフィルムの予防には、毎日の歯磨きなどのセルフケアと専門家による 定期的なチェックが重要だ。
中川教授は「特に眠る前のケアが大事」と話す。バイオフィルムは、口の動きが少なく、刺激によって出る唾液の少ない睡眠中に増加。さらに、薬剤や免疫機能が効きにくいという。このため、歯ブラシやデンタルフロス、歯間ブラシで物理的に除去するのが有効だ。歯ブラシが届かない部分のケアは、抗菌性の高い洗口剤を日常的に使うと効果が高い。バイオフィルムが歯石になってしまうと自分で除去するのが難しく、歯科医院で除去してもらう必要がある。
■ 歯周病原因菌、食道がんと関連
熊本大学 馬場教授ら発表 2016年11月4日 (金)配信熊本日日新聞
歯周病の原因菌の一つ「フソバクテリウム」と食道がんに関連があることが分かったと、熊本大大学院生命科学研究部の馬場秀夫教授(消化器外科)らが発表した。馬場教授は「フソバクテリウムを詳しく研究すると、がん治療薬の開発につながるのではないか」と話している。
馬場教授によると、フソバクテリウムは人間の口腔[こうくう]内に常在する細菌の一種。最近の研究で、大腸がんから高頻度で検出されることが分かったため、大腸より口腔に近い食道がんとの関連を調べた。
熊大で手術した325人の食道がん患者から切除したがん組織を調べたところ、23%にあたる74人からフソバクテリウムを検出。がん周囲の正常な組織では、ほとんど検出されなかった。
食道がんの影響に着目した5年後の患者の生存率は、フソバクテリウム未検出の患者は75%だったが、検出された患者では59%と低かった。
また、フソバクテリウムを検出したがんを調べたところ、炎症を引き起こすタンパク質の一種「ケモカイン」に関連する遺伝子が働いていることが判明。馬場教授は、フソバクテリウムがケモカインを介して食道がんの進行に関与したとみている。
馬場教授は「フソバクテリウムと食道がんの因果関係を完全に確かめたわけではないが、関連が分かった。今後の研究に期待したい」と話している。
研究成果は米科学誌に掲載された。(鹿本成人)
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歯周病の原因菌がアルツハイマー病に関連している可能性を示す研究結果
2019年2月1日(金)18時50分 NEWS WEEK 松岡由希子
口腔内の細菌とアルツハイマー病とのつながりを示す研究結果が発表された giorgiomtb1-iStock
<慢性歯周炎の原因細菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス菌がアルツハイマー病患者の脳内で確認されたという研究は発表された>
アルツハイマー病(アルツハイマー型認知症)」は、「アミロイドβ」といった特殊なタンパク質が脳内に蓄積し、正常な神経細胞を変化させることで、脳の働きを低下させたり、萎縮を進行させたりする脳疾患だ。
「アミロイドβ」は従来、脳組織で生成されるものと考えられてきたが、血液循環によって生成された「アミロイドβ」が脳内に入り込んで蓄積し、神経細胞の機能を損なわせることを示す研究結果や、緑内障、加齢黄斑変性(AMD)、糖尿病網膜症(DR)など、加齢に伴う眼疾患とアルツハイマー病発症リスクとの間に関連があるとの研究結果も明らかになっている。そしてこのほど、口腔内の細菌とアルツハイマー病とのつながりを示す研究結果が発表された。
慢性歯周炎の原因細菌とアルツハイマー病の関係
米ルイビル大学のヤン・ポテンパ博士らの研究チームは、2019年1月23日、オープンアクセスジャーナル「サイエンス・アドバンシーズ」において、「慢性歯周炎の原因細菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス菌がアルツハイマー病患者の脳内で確認された」との研究論文を公開した。
「慢性歯周炎の原因細菌であるポルフィロモナス・ジンジバリス菌がアルツハイマー病患者の脳内で確認された」
この研究結果によると、脳内には、ポルフィロモナス・ジンジバリス菌のほか、ポルフィロモナス・ジンジバリス菌が産生する毒性プロテアーゼ「ジンジパイン」も確認されており、そのレベルは、アルツハイマー病と関連のある「タウ・タンパク質」や「ユビキチン」との相関が認められている。
また、研究チームでは、マウスの口内にポルフィロモナス・ジンジバリス菌を感染させたところ、6週間後には脳内でポルフィロモナス・ジンジバリス菌が確認され、脳内の「アミロイドβ」も著しく増加した。
新しい治療法への道をひらく第一歩
これらの研究結果について、ポテンパ博士は、「ポルフィロモナス・ジンジバリス菌とアルツハイマー病の病因とのつながりを示すものだ」と評価する一方、「因果関係を裏付ける証拠としては十分でなく、今後、さらなる研究が必要だ」と述べている。
さらに、この研究では、「ジンジパイン」を阻害する分子標的療法によって、ポルフィロモナス・ジンジバリス菌の脳内での感染を抑制し、「アミロイドβ」の産生を妨げられることも示した。歯周炎の原因菌を阻害することで、「アミロイドβ」の産生を妨げ、神経炎症を抑制し、海馬の神経細胞を守るといった新しい治療法への道をひらく第一歩としても期待が寄せられている
■ 虫歯は遺伝するか?
HEIDI MITCHELL
The Wall Street Journal
2017 年 1 月 20 日 14:21 JST
いつも入念に歯みがきをし、フロスで歯間を掃除している大人でさえ、歯科医から恐ろしい言葉を浴びせられる。「虫歯がありますね」と。虫歯の発生には多くの要因が絡むが、この問題を増幅させる「虫歯遺伝子」なるものを持つ人は存在するのだろうか。そこで、DNAがどのように歯に悪影響を及ぼし得るのか、なぜシーラント(コーティング材)が歯にとって最良の友になり得るのかを、米ニューヨーク州立大学バファロー校歯学部のマイケル・グリック教授に聞いた。
親を責める
グリック氏はジャーナル・オブ・ジ・アメリカン・デンタル・アソシエーション誌の編集長を務めている。同氏によると、遺伝は乳歯が虫歯になる確率を最大64%引き上げる可能性があることが、一部の研究で示されている。しかし、虫歯の形成過程のどの部分が影響を受けるのかは明らかでない。同氏は「遺伝が影響を及ぼす可能性が最も高いのは、歯の表面にエナメル質が形成される過程だろう」と話す。
虫歯の遺伝的ルーツに関する情報は、主に一卵性双生児の研究から得られる。だがグリック氏によると、こういった研究は、甘いもの好きという嗜好(しこう)上の特徴が遺伝し得ることも示している。同氏は「虫歯になりやすくする糖分の多い食事と、遺伝的素質とを区別するのは困難だ」と指摘する。
同氏によると、遺伝的に虫歯になりやすいグループがいることを立証した研究はまだない。特定のコミュニティーに虫歯が多い傾向はあるものの、それは食事の内容に関連している公算が極めて大きいという。
糖分は敵だ
グリック氏は、たとえあなたが虫歯遺伝子を持っていると確信したとしても、「糖分がなければ虫歯にならないことを示す確かな証拠がある」と話す。同氏は、糖分の消費量と摂取頻度をどれだけ減らすべきかをアドバイスしている。とりわけ歯にくっつきやすいキャンディーや甘い飲み物など、糖分が歯に残りやすいものについてだ。「飲み物の選択肢に糖分入りの炭酸飲料がある地域に目を向けると、人々の歯の状態がかなり悪いことに気付く」という。
特別なケアをせよ
自分が虫歯になりやすい体質だと思うのなら、口の中を清潔に保つためのアドバイスに従うことが特に重要だとグリック氏は言う。それは、①1日2回歯を磨く、②定期的にデンタルフロスで歯間を掃除する、③毎日、抗菌効果のあるマウスウォッシュで口をすすぐ、④少なくとも年に2回は歯科医の診察を受ける―というアドバイスだ。同氏は、「多くの米国のコミュニティーで水道水にフッ素が添加されているが、これは1950年代以降に行われている公衆衛生上の介入で最善のものの1つだ」と話す。
歯科医院で受けられるプラスチックのシーラントも、虫歯を予防する上で非常に効果的だ。同氏によると、「この素材は歯にもともとあるくぼみを覆う。このため、そこには食べ物や糖分が残らなくなる」という。シーラントはまた、歯の再石灰化も促進する。「このため、初期の虫歯があったとしても、あなたの歯自体がエナメル質を少し強化して治すことが可能だ」という。
虫歯は珍しくない
グリック氏は、虫歯は一般に多く見受けられるものであり、遺伝的に虫歯になりやすいか否かについては過度に気にするべきでないと言う。米国では5人に1人が未治療の虫歯を抱えている。これらは歯の根管に至って強い痛みにつながる恐れがある。また、オーラルケアを怠っている人は少なくない。同氏によると、60歳を超えた米国人の約25%が全ての歯を失っている。
同氏は、遺伝のことはくよくよ心配するなと話す。親にたくさんの虫歯があろうとなかろうと、「頻繁に歯科医の診察を受け、定期的に歯みがきをして、虫歯がみつかれば早急に治療すべきだ」と勧めている。
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